◆何故彼らはリッケンバッカー、グレッチをやめたのか?◆
ビートルズのギターといえば言わずと知れたリッケンバッカーとグレッチだが、いつの間にやらエピフォン・カジノにうって代わってしまっていた。何故なのか...?

 1966年の日本公演を観た人のなかにはこういう意見があった。「ジョンがリッケンバッカー、ジョージがグレッチを持っていなかったのでがっかりした」と。
確かに1966年はビートルズの使用楽器ががらりと変化した年であり、ジョンのリッケンバッカーもジョージのグレッチもすでに過去のギターとなっていたのである。
それに加え、この日本公演を含む1966年のツアーでの使用楽器にはもうひとつ注目すべき点があった。それはポールがヘフナー、ジョン、ジョージがエピフォン・カジノというように3人のプレイヤーがすべてホローボディのギターを使用していたことであった。
ホローボディ・ギターとはボディが空洞の箱状になっている構造のギターで、多くのギターはボデイ・トップにFホールというサウンド・ホールを持っている。


で、ホローボディというカテゴリーの中にも様々なタイプがあり、エピフォン・カジノのようにボディ自体が比較的振動するように作られており、その結果、生音も大きいものから、リッケンバッカー325やグレッチ・デュオ・ジェット、フェンダー・テレキャスター・オールローズのように空洞部分が比較的小さいものや重量軽減の為にボディ内部がくり抜かれてソリッド構造に近いもの(このようなタイプはセミ・ホローやセミソリッドなどとも呼ばれる)グレッチ・カントリー・ジェントルマンやテネシアンのようにボディの振動特性は比較的良いが、Fホールを持たないために生音は抑えられているものなどがある。
それとは対照的にボディが中空でないものをソリッド構造といい、フェンダー・ストラトキャスター、テレキャスター、ジャズベース、ギブソン・レスポール、SG、リッケンバッカー4001Sなどはこの構造を採用している。

構造としてはホローボディ・ギターは非常に微妙なバランスの上に成り立っているギターだ。たとえば非常に良く鳴るマーチン・アコースティック・ギターなどにエレキ用のピックアップを取り付けてアンプで大音量で鳴らせば、フィードバック(マイクで言うハウリングのようなもの)だらけで使いものにならない。大音量での使用に耐えるためにはボディの鳴りをある程度抑えなくてはいけないのだ。倍音が豊かなボディの振動による生音を得ることと、それをフィードバックなしに増幅することはふたつの相反した命題であった。ビートルズがその初期から使用したギブソンJ-160Eはトップ材を振動特性のやや劣る合板にすることによって対応し、グレッチ・カントリー・ジェントルマンやテネシアンではFホールを省略することによって対応していたが、このフィードバックの問題はホローボディ・ギターに常に浮上して来る問題であった。そのような大音量下での問題があるにもかかわらず、ビートルズは何故ホローボディ・ギターをメインとして使い続けていたのだろう。

 たとえば、ポール、ジョン、ジョージの3人が所有した中期からのビートルズギターと言っても過言ではないエピフォン・カジノについて分析してみよう。カジノを一番最初に手に入れたのはポールで、それは
「フィードバックが容易に得られるから」という理由からであった。前述のとおり、フィードバックとは通常悪い意味で使われる言葉であるが、1960年代中期頃からこのサウンドを効果的に使用しようという流れが発生していた。つまり、このような音楽的流行を考えた上での選択がカジノだったのである。また、それだけではなく、カジノに付いていたピックアップ自体ががビートルズがその初期から慣れ親しんだギブソンJ-160Eと同じP-90であったという事実とも無縁でなかったはずである。P-90というピックアップは一般的にノイズレベルは高いものの、フェンダーよりファットでラウドな音色が得られると言われている。この辺りの差異はアルバム「LET IT BE」の"GetBack"のソロ(カジノ)と"One After 909"のソロ(テレキャスター)を聴き比べるとよく解るだろう。
テレキャスターのソロはいかにもフェンダーというようなクリアでトレブリーなトーンだが、カジノのほうはちょっと聴いただけではギブソンのジャズ系ギターのようなファットな音色だ。また、ギブソンの代表的な機種、レスポールとの比較ではカジノは弦のエネルギーがボディの振動によって減衰するためにサスティンは短くなるものの、コード弾きにおいては非常に分離のよいクリアなトーンが得られたのである。

以下残文省略

BCC発刊 The Beatles 2001 12月号 「ビートルズ 使用楽器研究/仲亀正之」 より引用

左:エピフォン・カジノで"Get Back"の
ソロを弾くジョン。この頃は塗装を落とすと
音が良くなるなどと言う迷信?により
こういった無塗装のナチュラルになってました。それとは別にSgtからMagicalあたりでサイケに塗装してしまったのを落とした為
との噂もありますが、何が本当なのか
私には解りません。悪しからず。 m(_ _)m

右:フェンダー・テレキャスター