◆改造ギター◆
ギターはポップスターにとって服装や髪型と同等にシンボリックなものだが、これらのギターを考察する時に思うことは、ビートルズがその初期から施した改造の目的は楽器を使いやすい道具にすると同時に自分たちの嗜好やセンスを表現していたと言えるのではないだろうか。

 ビートルズの愛用したギターの中には改造ギターが数多く見受けられる。改造とは工場から出荷されたオリジナル仕様のギターにパーツ変更やリフィニッシュなどを施し、プレイヤーの好みに合ったギターに仕立て上げることを指す。改造の目的は主に音質や演奏性などの向上、個々のパーツの信頼性を高めることを意図しているが、単に外観を好みのものに変えたいからというケースもある。
 初期の改造ギターとして有名なのはジョンの愛用した1本目のリッケンバッカー325だ。このギターのオリジナル仕様は、ナチュラル・フィニッシュ、コフマン・ビブラート、TVノブというものであったが、時代とともにビブラートはビグスビーに変更され、3度のノブ交換、さらにカラーが黒にリフィニッシュされるなどの大改造を経て、最終的にはオリジナルと同じギターとは思えないほどの変化を遂げた。
リフィニッシュやノブ交換については、外観をジョンの好みに合わせて変えようという意図が強いが、ビブラート・ユニットの変更は明らかに操作性の向上を目的として行われたという点が興味深い。ポールが同時期に使用した1本目のヘフナー500/1にも同様に大改造が施されている。このベースは1963年、フロント・ピックアップが乱暴に修繕された状態で、いったん現役を退くが、翌年復活した時には数々の改造が加えられていた。
ピックアップ・マウントが付け替えられ、ペグ、ノブも交換され、さらにカラーはフェンダーのような3トーン・サンバーストのリフィニッシュされていたのである。この改造はかなりダメージを受けていたこのベースの機能を維持するための改造と言えるだろう。そして目立たないながらジョージもこの時期に愛用していた1本目のリッケンバッカー360/12を改造している。1965年のヨーロッパ・ツアーでの360/12はテイルピースが裏側に付け替えられている。テイルピースを裏側にすることによって、どういう効果が得られるのかと言えば、低音弦側の弦のテンション(張力)が上がり、逆に高音弦側では下がるをいうことで、明らかに演奏性の向上を狙ったものだろう。また、1966年のツアーでサブ・ギターとして用意されていたジョージのギブソンJ-160Eはピックアップがオリジナルのネック・エンドの位置からサウンド・ホールのブリッジ寄りの位置へ付け替えられていた。その後、このギターはよりピックアップをブリッジ寄りへ移動しようとしてトップに穴まで開けられている。
この改造から解ることはJ-160Eを単なるアコースティック・ギターとしてだけでなく、エレキ・ギターとしても活用していて、よりトレブリーな音色が欲しかったということであろう。

 サイケデリック・イヤーになるとビートルズは愛用のギターを気ままにペイントし始めた。ジョンは2本目のJ-160Eにオランダのアーティスト集団「フール」の手によるペイントを施し、エピフォン・カジノのバックにもスプレーした。同様にポールもリッケンバッカー4001Sに、ジョージはフェンダー・ストラトキャスターにそれぞれ自分でサイケデリックなペイントをした。実は塗装というのは楽器にとって重要なもので、皮膜によって楽器を保護するという目的以外にも音質に与える影響は少なくなく、特にアコースティック系の楽器においては塗料の質や皮膜の厚さなどが音質に与える影響は極めて大きいと言われている。
現在でもポリエステル系より手間もコストもかかるニトロセルロース・ラッカー系の塗料がギターにとって最良とされるのは、ラッカーの柔らかく薄い皮膜が楽器自体の良好な振動を損ねないせいである。おそらくジョンのJ-160Eなどは、このペイントによって大きく音色が変わってしまったと推察される。そのせいかどうかは推察の域を出ないが、このペイントされたギターはジョージのストラトを除いて、すべて塗装を剥がされてしまう。ジョージは1980年代後半のインタビューでこの頃を回想し「ジョンと僕はカジノの塗装を剥がしてしまったが、それからずっといいギターになった。他のギターもたくさん同じことをしたと思う。ギターっていうのは塗装を剥がして元の木目に戻してやると何かが息づき始めるようだね」と語っている。
 1968年から1969年にかけてジョンのカジノ、J-160E、ポールの4001Sなどはすべて塗装が剥がされナチュラル・フィニッシュとなる。(ジョージのカジノも恐らくこの時期にオリジナルのサンバーストからナチュラルになっている)これはサイケデリック・イヤーと呼ばれる時期が1967年夏をピークとして急激に収束したことにも原因があるが、前述のジョージのインタビューで明白なように楽器本来の音質を取り戻すための改造であったとする見方もできる。この影響でカジノにはオリジナルになかったナチュラル仕上げが選択できるようになった。
 一方ポールの4001Sはビートルズ解散後も様々な改造を施され、ウィングス期にはメイン・ベースとなるわけだが、この改造された状態をコピーしたモデルが複数のメーカーから発売されるほど有名な改造ギターとなった。
 ギターはポップスターにとって服装や髪型と同等にシンボリックなものだが、これらのギターを考察する時に思うことは、ビートルズがその初期から施した改造の目的は楽器を使いやすい道具にすると同時に自分たちの嗜好やセンスを表現していたと言えるのではないだろうか。
BCC発刊 The Beatles 2002 3月号 「ビートルズ 使用楽器研究/仲亀正之」 より引用