私が愛してやまないビートルズ、そしてジョン・レノン。そのジョンに対しての気持ちを書くはずが、ビートルズを題材にした、
当人の回顧録になってしまいました。単なる一人の人間の戯言に過ぎません、不快に思われる方は読まないようお願いします。
拝啓、敬愛なるジョン・レノン様 I
第10話 SELTAEB絶体絶命!
「明日やねんけどな...来られへんねん」今度はハッキリとした口調でキサブローは言った。
「来られへんねんって、なんでや?」
「ねーちゃんがな、アカンって...」そう、キサブローだけが別の高校の生徒だったのだ。彼の両親は数年前から仕事の関係でブラジルに赴任しており、彼の姉が母親代わりをしていた。彼女は僕より7つ年上で当時24歳の大人だった。
僕はすぐさま彼の姉の処に陳情に駆け付けた。なんとか明日1日だけキサブローを出して欲しいと。答えは当然NOだった。自分の学校を休んでまで違う学校の文化祭に出るなどとは何処に道理があるのか、またそれが僕等にとって本当に良いことなのか、意味のあることなのかと懇々と説教された。
今となっては当たり前の事と捉えられるが、当時子供だった僕はそれでも納得出来なくて、今までこの日の為にやって来た事、姉の言わんとする事も解るがたった1日のことだから大目に見てくれてもいいではないかと自分達の都合のいいことばかりを並び立てたが、いくら頼もうとも彼の姉は決して首を縦に振らなかった。今になってみると、この世で何でもありを通すということは、自分の理念をあやふやに貶める事だと強く教えられたような気がする。しかし、目先の事しか目に入らない若かりし僕は終始、何とか成るかも知れないと小さな希望を抱えつつ、この確固たる鉄の要塞に挑んでいたのだ。彼の姉との間で交わされる強烈な言い分、激しく言葉が飛び交う横でキサブローはうなだれていた。
「そうか、解った。もう頼まんわい!もうやめじゃ!やめじゃ!」
僕はつい自暴自棄になって、そう吐き捨てるように言ってしまった。
「なぁ、Cuts..明日もやりいな。やったら僕が弾いたるなんて子が出て来るかも知れへんやんか」
彼の姉はそう言ったが、言うに事欠いて何と体裁ののいい慰めを言うのか、そのような者が出現するくらいなら、誰も苦労は要らないだろう。半ば呆れながら僕は立ち上がった。立ち上がりざまキサブローと目が合った。無念と申し訳なさが同居したような寂しい眼差しだっが、僕は何も言わず彼の眼差しさえ受け入れない様相で彼の家を後にし、他の二人が待つ学校へ戻った。
「どうやった?」メンバーの二人はともかく噂を聞きつけて級友や他のクラスの面々も集まって来て心配そうに尋ねた。あの時の僕の瞳を覗き込むような皆の心配顔は今でも覚えている。
「あかんかった...」ため息混じりに出た僕の言葉と同時に、周りでもため息が聞こえた。
「そーかー。しゃあないなぁ...で、どうするんや?あした」
「こんなん3人でみたいなん無理や、やめや、やめ!」ここに来てまた無念さが込み上げて僕はまた自暴自棄に答えてしまった。
一瞬教室内がシンと静まりかえったように感じた。水を打ったような静けさとはこういうのを言うのだろうか、などとまるで関係のない妙なことを考えていたのを思い出す。
「Cuts...やってくれよ」誰かがぽつりと切り出した。
「そや、やってくれよ、俺達も手伝うしさぁ」
「何とかなるって、なぁ、やろーぜ、やろーぜ!」
周りから段々と沸き立つように声が飛び出して来た。それでも僕としては最低限の事も確定出来ないものをやりたくないと頑なに拒んでいた。そこまで拒むほど大したモノでもなかったように思うが、とんでもなく無様なモノを人に聴かせるのが忍びなかったのだ。
でも最後には荒木君と武澤君にも促されて、やらざるを得なくなってしまった。

H J

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