私が愛してやまないビートルズ、そしてジョン・レノン。そのジョンに対しての気持ちを書くはずが、ビートルズを題材にした、
当人の回顧録になってしまいました。単なる一人の人間の戯言に過ぎません、不快に思われる方は読まないようお願いします。
拝啓、敬愛なるジョン・レノン様 K
第12話 ピート・キサブローの解任劇
 3日目の講堂での演奏は実に思い掛けないことだった。前日の帰りがけに急に担任から出演するようにと言われ、僕等は深く考える余地もなくステージに上がった。成川忠男を含めた昨日のメンバーで4曲演奏することになっていた。下で見ていた全校生徒は轟音に一瞬呆気に捕らわれた様子だったが、1曲目が終わると我々各自の名前が黄色い声ではなく、野太い声でステージ下の様々な処から発せられた。この異様な雰囲気のなか僕達は演奏した。これを終えて色々とあった大文化祭もなんとか終了し、ほっとした体でステージを降りる際に成川忠男に言った。
「お前、バンドやってるんか?」
「うん、やってる」
彼は2つ下の1年生で、通称ター君と呼ばれ中学生を引き連れてのバンドを結成していた。
やはりなという感じだったが、僕はこの成川忠男をリードギターとして僕達のSELTAEBに迎えたいと思っていた。彼を入れる事でバンドが一変して良くなるのは確実だと確信していたからだ。しかし、彼を入れるという事はリーダーとしての自分の立場が危うくなるかも知れないと思ったのも事実で、僕の心はその両端で揺れていた。ジョンがポールをクォリー・メンに入れるかどうかで迷ったというのがあったが、その時の僕はまさにその境地だったように思う。
しかし、ちゃんと他のバンドに入っていると言うのだし、わざわざこっちへ来いとも言えないし上級生としての妙なプライドもあって、彼には一度僕達の練習を見に来ないかと言ってみた。
予想に反して彼は即座にOKし、その次の週の日曜日に僕達の練習場にやって来た。でも僕はその時すでに彼をリードギタリストとして迎えるつもりになっていたのだと思う。何故ならこの日の練習の事をキサブローに告げずにいたからだ。
ター君が来るなり即練習となった。今後このバンドを良くしていく上で第一に必要なのは全員のパート変更だと確信していた僕は、リードギターをター君に、サイドギターを武澤君、ドラムを荒木君にし、本来サイドギター命だった僕はこれを諦めてベースにという大改造を施した。
こうすることによりバンドは即座に良くなったが、ただ気掛かりだったのはキサブローのことで、確かター君を招いて2回目の練習の時だった。
ギターとドラムの音を聞きつけてキサブローが僕等の練習場に上がって来た時のこと。
彼と顔を合わせるのはあの文化祭以来のことで、
お互いなんとなく気まずい顔での再会だった。彼は文化祭に出られなかった事を気にし、僕はキサブローにバンドから去ってもらいたい意向を告げずにター君をバンドに引き入れた事に気まずさを覚えていた。キサブローが所属していたSELTAEBは文化祭と共に終わったのだと、幕引きの身勝手なひとつの理由付けにしていたのだ。
彼はゆっくりと歩きながら荒木君、武澤君と世間話のような言葉を少しばかり交わして談笑していた。荒木君、武澤君も決して口には出さなかったが僕と同じ思いだったと思う。彼はその次僕に先日の文化祭で出演出来なかった旨を済まなかったと言い、僕は当日の状況を彼に話した。
キサブローはター君を一瞥しただけで彼とは何も言葉を交わさなかったが、現在の自分の置かれている状況を素早く察知したのか、じゃぁというように練習場から出て行った。
この時のこわばったような彼の表情と寂しげな後ろ姿は今でも忘れられない。この日以降二十五年近く僕は彼と会うことが無かったが、いつも心遺りに思うのはこの日の事だった。いくらアマチュアバンドとはいえ、きちんとはっきりと言っておくべきだったと。
今思えばおかしなもので、キサブローにはバンドを辞めてくれと言わず、ター君にはバンドに入ってくれとも言わなかったのだ。暗黙の了解というか別れてくれとも言わず、そして付き合って欲しいとも言わずに彼氏彼女になっていたような、なんかあやふやな男女の仲のようで潔くない感じが凄くイヤだったが、そもそもハッキリとさせる勇気が無かった僕が一番悪かったのである。
残った二人のメンバーと新メンバーのター君の心の中にも同じようなあやふやさが残った事は確かだったと思う。これは次元がまったく違うが、ピート・ベストのドラム解任劇のような後味の悪さを物語っていたように思う。

 J L

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