◆ This Boy 考 ◆
それは「実は皆さんコード間違うてはるんとちゃいまっか?」から始まった...
                        Original Download    Bm入りCuts作品(笑)

 先日の"宅録友の会"でのコマンチャさんの興味あるお話で「This Boy」のギター・コードについて、殆どの、いや、全てのプレイヤーがギター・コードを間違えてるとのご指摘がありました。後日、その件をご自身のHPでご自身の作品と共に発表されました。私も気になってオリジナルを再度聴いてみました。なるほど、コマンチャさんの言われるとおり、D→Bm→Em→A7ではなく、Bmの部分でギターのBmのコードが聞こえずに、Dコードのまま進んでいるように聞こえます。さらに、"This boy wants you back again"のところもEm→A7でなく、D→A7と弾いてるのではないか?とのこと。
ん〜そう言われれば、なるほどそう聞こえるんですが...最初のAメロのDの連続にしても、Dだとは思うものの、ベースのルート音が入ったりするためか?何となく純然たるDコードではないような気がしました。また例のブレイクのところ(Em→A7)も確かにDっぽいのですが、どうも単なるDではないような音に聞こえます。
ここは、ひとつ耳のいい専門家(笑)に訊いてみようということで、我がパートナーTeraに尋ねてみました。以降はTeraの回答文です。ギターなどを持ってじっくり追って行かないと解りづらく、イラチな方はイーーーッとなると思いますが、よろしければ参考までに読んでみて下さい。かく言う私も理解度は75%程度でしたが(笑)
ただし、これも厳密にはTeraの推測及び、私見ですので、その辺りはご了承下さいませ(^0^)>


早速聴いてみました。コマンチャさんのHPも拝見しました。
まず、混乱を避けるためにハッキリさせておくと、ベースも含めた楽曲全体としてのコード進行自体はまぎれもなく「D→Bm→Em7→A7」ですし「♪This Boy Wants You Back Again」の箇所は「Em7→A7」です。
コマンチャさんの説は「ベース音を考慮せず、ジョージのギターのヴォイシングに限れば」という前提になります。ギターの種類は特定できませんが、奏者はおそらくジョージだと思います。理由はサビ前やサビ中のD7とE7を9thコードの押さえ方で弾いている点です。僕の知る限りジョンはこの時期このコードを弾いたことがないと思います。ちゃんと調べたわけではないですが、「Julia」で弾いたのがおそらく最初ではないかと。

では、なぜ本来BmのところでDを鳴らしても不自然ではないか?ひとつは「コード同士の親和性の高さ」です。DとBmの構成音は一音しか違わず、機能的にもトニックとトニック代理和音として非常に近しい関係にあります。実際の構成音としてはA音かB音か、という違いだけです。よく聴くとこの曲の演奏でもジョージはD=「A、D、F#」(低→高)をBm=「B、D、F#」と厳密に一音だけを変化させて弾いています。
それと、このあとのEm7→A7では頭にゴンと開放弦のルート音を弾いていますが、最初のDとBmは高音弦のリズムだけで低音弦のルート音がないのも『皆さんの「This Boy」は明らかに「Bm」が聴いて取れます。しかし、ビートルズのは何度聴いても「Bm」が聴き取れません。』とおっしゃる原因かなと思います。

もうひとつの理由はあの3声コーラスのせいでしょう。楽器の構成音は「D→Bm」で間違いないのですが、コーラスのほうはもう少し複雑で最初の「♪This Boy」は「F#(J)、A(G)、C#(P)」→「F#(J)、A(G)、B(P)」
と楽器の構成音と微妙に違っています。
このコーラスに無理矢理にコードネームを付けるとしたら「DM7→Bm7」。この「Bm7」の「7」が実音ではA音ですので構成音はBm7=「B、D、F#、A」ということになりルート音のBを省けばDコードと全く同じです。レコードではポールがベースを弾いてくれていますので合わせて演奏する時にはずっとDコードを弾いても全然違和感がないというわけです。

「♪This Boy Wants You Back Again」もコーラスのせいで単純な「Em7→A7」には聞こえなくなっています。
「♪This Boy 」のコーラスの構成音は「D(J)、G(G)、B(P)」となってルートのE音が省かれた形になっています。おそらくこれがジャズ的な浮遊感を感じさせるのかも知れませんが、「E、G、B、D(7th)、F#(9th)、A(11th)」=Em7(9,11,13)と一個飛ばし(3度堆積)に上へ伸びていく遠心感を喚起させるのかも知れません。このコードの高いほうの3音はDコードと全く同じです。
「D(7th)、F#(9th)、A(11th)」ジャズの理論ではテンションと呼び「使って良い音」ということになっています。この理論があるのでジャズのプレイヤー等は「Em7」と書いてある箇所で平気でDコードを弾いたりします。

コマンチャさんの耳はこの高次テンションに含まれている上部構造を聴き取っている、という事になります。でもあくまでも「Em7」のテンション感であって「D」ではありません。
ついでに言うと「♪This Boy Wants You Back Again」の「Wants You」。「F#(J)、A(G)、C#(P)」→「E(J)、G(G)、B(P)」という動きがA7の中で行われています。楽器音も含めたアンサンブルでコードを付けるならA7(13th)→A7(9th)。おそらくジョンのメロディに対して3度上+3度上にハモったらこないなことになりましてん...ということでしょうが、結果的に非常にジャズっぽい。

おそらくこの「7th」「9th」というジャズっぽいテンション感はチェット・アトキンスやレス・ポールといった当時のジョージのアイドルギタリスト経由で獲得した響きだと思いますが、この「This Boy」のハーモニーや「She Loves You」の「♪Ooh」(あの首振ってやるところ)等を聴くとジョンやポールも共有していたのは確実です。

ともすれば普通に演るとオールディーズポップスみたいになりそうなこの曲を、逆にいつ聴いても深みのある響きに仕上げてしまう力量。

やはり恐るべしですわ。
                                                   2008,07,27 

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