■設計事務所に依頼して建物を建築するということ

  建物造りは何処か人生に似ていると思います。そう言うと、ちょっと大袈裟かも知れませんが...
人生には小さな判断から大きな岐路まで様々な選択があります。私も人生の半ばを過ぎ、今の自分というものを少し見つめるようになりました。(かなり単純な思考ですが...)
 「自分は何故この仕事をしているんだろうか?」から始まり「A事務所に勤めていて独立したから」と遡り 「Bの会社から転職する時にA事務所の所長に出会ったから」その次は「その前は、あの学校で建築を学んで卒業し、就職たから...」 「その前は、あの時あの先生に建築へ進めば?と勧められたから」 などと、どんどん過去へ遡って行きます。その時代や世相の中で色々な人達に出会い、様々な影響を受けて今の自分があるような気がします。
「でも別の人生や仕事もあったのではないだろうか?」と考えたりもしますが、想像は想像であって、その域を越えることはありません。
  皆さんも同じように様々な人生の岐路に差し掛かっては、右か左か真っ直ぐかと、色々な影響を受けながらも、その流れの中で自分なりにジャッジされて、今日に至っておられる筈だと思います。
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 でも、考えてみて下さい。これは過去であるから振り返れるんです。未来・先のことは誰にも解りません(当たり前ですけどね)ジャッジと逆の方へ行った自分を想像する事は可能ですが、逆方向での実際の自分を見る事は決して出来ません。「Back To The Future」みたいに過去に戻れれば見られるし、変えられるんでしょうがね...ま、変えれないからこそ、重みがあるんでしょうけど。
建築も人と同じ様に、その建物の進むべき道があります。起案〜設計〜竣工までの間には色々な岐路があり、すべて良い方向に向かえば良いのですが、選択を間違うと良くない方向へ向かって行く可能性が大きくなって来ます。あれよあれよと言う間に終点に行き着いてしまったら、やり直す事が出来ないんですよ。後悔して、別の道筋を遡って想像したところで、もうそこに戻る事は出来ません。
「気に入らないから全部ぶっ壊して、初めからやり直す!」こう言えるお金の余った人も居るかも知れませんが、まず希な方でしょう。
 特に家は今や一生に一度建てられるか、建てられないかといった、重要な人生の大イベントのひとつなんです。

上記の画像は「バック・トゥ・ザ・フューチャー ファンサイトより引用させて戴きました。
「どうして、こんな味気の無い建物になってしまったんだ!こんな筈じゃなかった」
「何故こんな使いにくい間取りになってしまったのかしら?」

 こういう嘆きにも似た言葉より
「あの予算でよく、こんないい物が出来たな..いい買い物をした。よかった、よかった」 
「今までとは違った愉しい暮らしが出来そう」

こんな言葉が出て来るように、間違いのない道をすんなりと歩んで戴きたいものですね。
良い建物を造るには、人の出会いと同じで、良い設計者(私が特別良いという意味じゃありません)と良い施工者(施工会社)に出会うことが大事です。どちらが欠けても満足のゆく物は出来ません。
 「じゃあ、お前んとこに頼んだら100%満足のいく物が出来るんだろうな!」
 まぁ、まぁ、脅さないでください。昔の諺みたいのに“家は3回建てないと自分の思い通りの家は建たない”なんていうのがあります。はっきり言って隅から隅まで100%皆さんが満足のゆくものは出来ません。また先程の諺のように、3回建てたとしても100%の満足は得られないと私は考えます。(私自身の家でも無理でしょう)
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 建築だけにとどまらず、世の中の殆どがそうである様に完璧という物はありません。数学の問題みたいに完璧には行かない物なんです。しかし、60点や70点では満足出来ませんよね。やはり、90点くらいじゃないといけません。90点というのは設計監理のソフト面と施工のハード面で可能な数字です。残りの10点は細々としたマイナス点、たとえば、あまり目立たないけど、ちょっと傷があるとか、かすかに目地が合っていないとかいうような些細な不満は出るかも知れません。しかし、建築は色々な職人さん達が手で造りあげる物なのです。よって、線で描いたように寸分違わないようには作れないのです。でも、やたら新建材や既製品ばかりを使ってうすっぺらで綺麗な建物を造るより、匠の手垢の遺った物の方が見方によれば美しいし、値打ちがあると私は思います。
 安価な材料でも偽物より本物を、素材の持つ良さを生かしたデザインを、時が経って古びても美しいと思える形態を持つ建物を作り出すことが、私の理想であり、私の目指す建築なのです。
  私達の仕事は皆さんが建物を建てようとし、岐路に差し掛かった時の“道しるべ”または“道先案内人”みたいなものなのです。
 大きく道を外すことなく、後悔のない最終地点へ誘導する事、また、その時皆さんに喜んで頂くのが仕事なんです。
そして建築が終わり引っ越しをされ、幾分か落ち着かれて、暮らしの中で何かを感じられた時
「あぁ、あの人に出会えてよかった...」と思って頂けたなら、私はそれが一番嬉しいのです。
「ま、100点満点じゃないけどね...」と呟かれそうですけど....ね(笑)
設計の道先案内人
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