私が愛してやまないビートルズ、そしてジョン・レノン。そのジョンに対しての気持ちを書くはずが、ビートルズを題材にした、
当人の回顧録になってしまいました。単なる一人の人間の戯言に過ぎません、不快に思われる方は読まないようお願いします。
拝啓、敬愛なるジョン・レノン様 P
第17話 再会
 ラストコンサートは1部と2部とに分けて2回行うことにしていた。出演バンドは僕達のみといった至ってアットホームなコンサートだからだ。
今回は少し演出をということで、オープニングにバッヘルベルの「カノン」を使った。もの悲しくも美しい追走曲に囲まれて入場するというシナリオだ。
1クール25曲くらいの予定である。観客は5,60人くらいは入っていたか、このコンサートは事実上の解散コンサートなのだが、実は僕の一番の感心は1年前に別れた彼女が来てくれることだった。
理由も解らずじまいに別れた例の彼女だ。彼女と別れてから半年くらい経った昨年の秋に僕には新しい彼女が出来たのだが、僕はどうしても前の彼女のことが忘れられず、知らず知らずながらいつも彼女同士を比較してしまっていたようだ。そのような状態で上手く行く筈もなく、その彼女とは3ヶ月ほどで別れてしまった。付き合うと言っても何処かへ遊びに行ったとか、あまり印象に残っていないということは相手の女の子を本当に好きだったのかどうか定かではなかったようだ。しかし、それも今になって考えれば、失礼な事だったと思う。
「Cuts君にはやりたいことをやって欲しい」僕は彼女の言葉を呪文のように繰り返して来た。
その言葉通りにやって来たことを今日やっと彼女に見せる事が出来るということで、僕には感慨深いものがあった。僕達は自信満々でこのラストコンサートを迎えたわけだが、ひとつだけ気掛かりなことがあった。武澤君である。いつものギタープレイ云々などという事ではなく、この日彼から聞かされた驚くべき事実は「風疹」にかかっているという事だった。
熱は38度近くになっており、顔は湿疹で真っ赤になっている。これはかなりヤバそうだったのだが、彼とて止めるわけには行かず、観客に気付かれないよう顔におしろいを塗りサングラスを掛けてのステージだった。

かなり辛かったと思う。第2部などは朦朧としていたようで、コードはいつもに増して頻繁に間違えるし歌詞も定かではなかった。僕は事実上の解散コンサートで自分自身がセンチメンタルになるかと思いきや、武澤君の心配もあったせいかそれどころでははなく、なんとか最後までやり遂げなければという思いで一杯だったように思う。結構長い時間のライブだったが、観客は誰一人として帰ることなく最後まで残ってくれてノリのいいライブができた。最後の曲が終わり、アンコールで「ファンキー・モンキーベイビー」と「緊急電話」をやってコンサートは終了した。
今まで鳴り響いていた轟音が止み、拍手が起こって静かになり「カノン」が流れ始めると、何故だか急に熱いモノがこみ上げて来て鼻がつんとなった。これはヤバイぞという感じでステージサイドにある楽屋に駆け込んたが、感情が高ぶって来ていたのか、僕は涙が止まらなくなってしまった。他の3人は気を利かせたのか入って来ようとはせず、ステージ下にいる友人達と話していたようだ。
少ししてノックの音がした。入って来たのは1年前に別れた彼女だった。荒木君、武澤君に促されてのことだろう。この春から大学に通う彼女は薄化粧をしていて、今までの清純な彼女とは少し違った大人っぽい華やかさがあった。僕は泣き顔を見られるのが辛くて横を向いて黙っていた。
「どしたん...」聞き覚えのある声は的確な言葉を得られずとも不器用ながら優しくなだめる。
「あぁ...お前、あの時言うたよなぁ、俺にやりたい事をもっとやって欲しいって...今日、やっとそれを見せる事が出来たわ。」そこまで返すのが精一杯で、正確に言うと台詞の最後の方は声に詰まっていたかも知れない。
「良かったよ...Cuts君...ようやったやん...ほんと、がんばったね」
彼女は優しく言ってくれたが、僕はここからはもう何も言う事が出来なかった。
観客が帰り、後片づけを終えた頃は親しい友人達が何人か残っていた。荒木君は中学の同級生の女の子と帰ると言って早々と帰ってしまい、武澤君は風疹で今にも倒れそうになっていたので当然直ぐに自宅へ直行である。いつものように喫茶店か何処かで打上げをと思っていた僕の思惑は外れてしまった。
みんなが様々に帰って行く、今までに見たことのない光景で何とも寂しさを感じる終わり方だった。武澤君の撒き散らした風疹は、この後僕達3人のメンバーと僕の前の彼女やその友人、それに観客十数人を巻き添えにして猛威をふるった。かなり強烈な風疹で僕も1週間みっちりと休まされた。やれやれ...


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