クラウス・フォアマン回想録 D | |
永遠のグルーヴ 第5話 ほんとうのジョン あのアストリット・キルヒヘアとともに無名時代からビートルズと関わった男 |
僕はいつもビートルズを尊敬していたし、固い絆で結ばれていると感じていた。特にジョンとは。 それが理由で、ソロ時代のジョンのセッションに参加したわけではないけどね。 ジョンはよくウィットに富んで皮肉屋だと言われる。でも、本当は挑発するのが好きなだけ、しかも見せかけだけに過ぎない場合が多かった。みんなと同様にね。自分のもろさを隠すためわざとそういうふりをしていたんだ。 ジョンはとても繊細で、目を開いて人生を見据えていた。知的で、不正を許さないという人間だった。外見はとてもそう見えないんだけど、実際のところジョンはとても内向的で人見知りするタイプだった。そして最小限のことしか言わない。 彼の言葉はウィットに富んでいるが鋭く、時には皮肉っぽく相手に突き刺さった。そんな風だからジョンは怖がられたりすることもしばしばだった。彼はみんなから愛されたい、認められたいという「ミスター・ナイス・ガイ」のタイプではなかった。 でも彼の周りには友達にもなりたくないような連中がたくさんいたのは確かなことだ。レーパーバーンではジョンは頭が悪く暴力的でいかれた奴らに囲まれていた。根はいい奴らだが、頭に脳みそが入っていないような人間にね。あまりこういうことは言いたくはないが、ジョンのミュージシャン仲間も、こういった類の人種が多かったことは確かだった。ジョンにとってはこういった状況ががストレスの元だったようだ。 1962年4月11日、ビートルズはハンブルク空港に到着。飛行機を降りた彼らを待っていたのはスチュアート・サトクリフの死だった。4月10日にスチュアートが亡くなり、空港で彼らはその訃報を初めて聞くことになった。その時僕らはみな呆然と立ち尽くし、嘆き悲しみ、それぞれのやり方で悲しみに耐えようとしていた。 ジョンは僕らが言っていることを信じようとはしなかった。そして僕らの顔を見て関を切ったように突然笑いだした。笑って、笑って.....背筋が凍るような奇妙な光景だった。それがジョンのやり方だったんだろう。ジョンはスチュの突然の死を受け止めることが出来ず、なんて不当なことなんだと感じていたのだろう。彼はこの事件を乗り越えようと過度に興奮し、無理矢理頭をおかしくさせたんだと思う。そして朝早くから彼は悲しみを大量のスコッチ&コークで飲み干そうとした。 ジョンは傷ついた時、特に荒っぽくなった。だからワードローブを叩いたり、皮ジャケットを引き裂いたりもした。ジョンにとってはスチュアートの死は避けては通れない試練のようなものだった。親友の突然の死は、まだ若いジョンには痛い一撃だったに違いない。ジョンは新たなこの状態に慣れるために辛い時間を過ごした。それはあきらめにも似ていたが、ジョンはあきらめたくなかったんだろう。彼は強くなりたかったんだ。彼は生意気な年下のジョージがジョンに安らぎと強さを与えたんだと思う。アストリットがスチュの死後撮影したジョンとジョージの写真がある。スチュのアトリエで撮られたたものだ。この写真が多くを語っている。前方でジョンが茫然自失の表情を浮かべているのに対し、その後ろには18歳の堂々としたジョージが悲しむジョンを支えるように立っている。 2日後はスター・クラブのオープンの日。彼らは毎夜毎夜そこで歌い、踊り、プレイし、人々を楽しませ、幸せを振りまくよう期待されていた。彼らは勇敢だった。ジョンは次から次へと素晴らしいショーを繰り出した。いつもより大声で叫んでいたくらいだ。ジョンの態度が雪ダルマ式に凄くなって行き、他のメンバー達もノリにノってきた。 ビートルズの出番が終了しても、ジョンはパフォーマンスをやめなかった。他のバンドが演奏するかたわらジョンはパフォーマンスを続けた。彼は掃除婦の服をを着てうろうろし、バケツとモップを持って床やマイクをごしごしと磨き、シンガーの靴を磨いたりしておどけていた。 |
次にジョンは舞台裏で作業着を見つけ、工事現場の作業員のように板を担いで、視野にあるものすべてをバンバン叩いていた。アンプ、マイク、ドラム...ミュージシャンさえも。(これらのパフォーマンスの中には、かの有名な「便座の首かけ」もある。 オーナーのマンフレッド・バイスレダーはジョンのいたずらが気掛かりでしょうがない様子で、クラブのバルコニーからレフリーのごとく彼を見下ろしていた。ことがコントロール不能と判断すると、彼は急いで幕を下ろしてしまうのだ。そういうことはこれまでも何度かあったが、その夜はまさにそんな夜だった。 ビートルズはプレイし、観客は踊り、素敵な時を過ごしていた。途中とても魅力的な女の子がビートルズに背を向け、ステージの手すりに寄りかかっていた。明らかに思わせぶりな態度だ。ジョンは彼女の肩をじーっと見つめていた。そして、ほら来た! ジョンのいたずらっぽい表情、何か起こる時の顔だ。ジョンはギターをはずして静かに床に置いた。そして彼女の横に座った。そして「つ〜かまえたっ!」と言うと両脚で彼女の腰を抱え込んだ。彼女の表情は謎だった。叫びたいのか、泣きたいのか、笑いたいのか? 僕は彼女が楽しんでいるように見えたけど。 次にジョンはドレス姿の彼女に抱きつくように腕を静かに挙げた。彼の手は彼女の大きな胸に触れるか触れないかの処にあった。こりゃいかんと、舞台裏ではバイスレダーが今にも幕を下ろすボタンを押そうとしていた。 と、思われるやいなや、ジョンは突然立ち上がり、彼女をジョージのマイクの処へ行かせ、スポットライトのあたる自分のマイクに堂々と向かって行った。ビートルズの3パートあるハーモニーのひとつに間に合うように。 |
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撮影:アストリット・キルヒヘア 1962 |
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ザ・ビートルズ・クラブ 「クラウス・フォアマン回想録」より引用 A B C D E |